前回は、DACというものを考えるとき、「デジタルデータを交流電流に正しく変換する」事のみを主眼に置き、それは「素性の良いチップ」を「正しい回路で設計する」事で、DACという構成要素に求められる基本性能が高められる、という僕の考えを述べた。
次は、その実践として、最近話題となっているESS Technology社のDACチップについて少しその面白さを述べ、実際にどういう製品が「素性が良い」と思われるかについて、示したいと思う。
ESS Technology社のES9018Sというモンスター
最近、高級なDACの話をすると、だいたいこのES9018S、もしくはその下位であるES9016Sを搭載している事が多いように思える。
ESSのサイトにはこのDACチップについて、こんな風に書いてある。
「SABRE32 DACシリーズはBlu-Ray、AVレシーバ、オーディオ応用向けの世界最高性能の32bitオーディオDACです。ESS社が独自開発した特許取得済みの32bit Hyperstream™、Time Domain Jitter Eliminatorの採用により、究極の特性 (DNR、THD+N)を実現しています。」
そう、”世界最高性能”であり、”究極の特性”を持ったチップなのである(笑)
「かっこわらい」なんて付けてしまったが、データシートなどを見てみると、この謳い文句があながち嘘ではない、かっこわらいなんてつけてごめんなさい、なんて気持ちになる。
なかなかスペックの話をどう表現すればその凄さがわかるか、不明ではあるが、たとえばiPhone6より音が良いと評判のGalaxyNoteや、その他の高級オーディオで採用されている、DACチップ(Wolfson WM8740)のスペックが、
117dB SNR ('A' weighted stereo @48kHz), THD+N: -104dB.
であるのに対し、ES9018Sは
129dB DNR(8ch), THD+N: -120dB
となっている。DNR(ダイナミックレンジ)とSNR(SN比)は異なるパラメータではあるが、多くの場合、同じ程度の値を示し、これは雑音が信号に対しどの程度含まれているかの値を示すわけであるが、これが12dBも異なる、という事でこれはおよそ4倍の開きで、ES9018Sが優れている事を示している。
そしてTHD+Nはこれもまた理解のしにくい値であり、私も十分に理解はしていないパラメータではあるが、信号の歪み率を示す値であり、これが16dBも異なるという事は、6倍以上、ES9018Sが優れている事を示している。
ES9018Sがモンスターである理由は、このデジタルデータから交流信号に変換する回路を1チップで8ch分持っており、個々の回路でこれだけの性能を発揮する事ができる点だ。そして、さらに面白い事に、8chの回路で別々に変換したデジタルデータを束ねる事で、ノイズを打ち消しあい、DNRを実に135dBにまで高める事ができる。この時のDNRは、先ほど高級チップだと言ったWM8740より18dBもの開きとなり、実に8倍もノイズ量を減らす事ができる事がわかる。
ちょっとスペックの話で、本質を見失いがちにはなってしまうが、ESS社のテクノロジーは素晴らしく、賞賛に値するものである事がわかっていただけだであろうか。
そして、こういうチップを採用したDACを使う事で、アンプに送る元の音声信号を「ノイズレス」でかつ「原音に忠実」な状態にする事ができる事も容易に理解いただけるかと思う。
ダイナミックレンジの高さは静けさと楽曲のコントラストを高め、歪み率の小ささは、原音に忠実にきれいに音を分解する事に寄与するだろう。
さて、ならばこのチップを採用したDACを、、、という話になるのだが、少なくともチープ・オーディオを体現する者にとってはまず、その価格がネックとなる。個人で買おうとすると、おそらく1個8000円くらいする事を確認済みだ。そして、そのダイサイズも大きく、結果として基板サイズも大きくなることになり、これはすでに高級ピュアオーディオの領域になってしまう。
ES9018K2M/SABRE9018AQ2M/ES9023はプチモンスターの夢を見るか?
そこで、僕が注目したいのは、ES9018Sのモバイル用の廉価チップであるES9018K2M/SABRE9018AQ2Mといったチップを採用したDACである。
これらのチップはチャンネル数こそ2chではあるが、ほぼES9018Sと同等の性能を兼ね備えているという事だ。もしくは、もっと採用の多いES9023というチップについても多少のスペック的な見劣りはあるのかもしれないが、その素性は確かなものであり、高性能が期待できる。
さて、また長くなってきた(笑)
いつもどおり、次回、である。次回は、チップスペックと謳い文句、レビューなどから、2015年2月時点で期待のできるDACについて紹介したい。
うーん、やっぱりDACの話は長くなる。PCM2704やPCM5102といった私が愛用しているDACのチップの話を省略しているにも関わらず、である。
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