さて、iPhone7以降でイヤホンジャックが廃止され、この流れに多くのスマホメーカーが迎合している状況に何かとモヤモヤしている人も多いかと思う。
しかし、求めてもかなわないこんな状況は、結局のところは「有線にこだわっていると損をする」状況に強制的に立たされている状況とも言えなくもない。
ならば、もうこの際だから「これを好機と考える」事にして、ワイヤレスイヤホンに再度向き合うのも良かろうという事で色々調査を再開してみているところなのが現在の状況である。
AirPods以外にどんな選択肢があるか考えさせる斬新なデザイン(笑)
しかし相変わらず、ワイヤレスオーディオは奥が深い。世の中で一番難しいのは妥協だ。結論を出すにはあらゆる知識と判断を駆使して、取り組む必要があるだろう。スペックを鵜呑みにした上で書かれた記事も多く、その裏にある実際の性能がわかりにくいという状況も実によくない。
このままでは、ワイヤレスオーディオもハイレゾと同じように「皆良いと言っているけど、実際聴いてみると首をかしげる」そんなものになってしまうかもしれない。
そんなわけで、世界で最も正しい情報を知りたいと願うボクみたいな人達に向けて、現時点におけるボクの調査結果を共有しておいた方が良かろう、というのが今回のテーマ。
Bluetoothオーディオの一般的評価
今の最新のBluetooth機器を使用している人たちがどういう印象を持っているかはよくわからない。
だけど、Bluetoothのオーディオ活用を長らく試しているボクと同世代の人達は総じて同じ印象、「つながりにくく音が悪い」そんなものだという印象が大変に強いと思う。
まあ、それも過去のBluetoothオーディオがA2DPというそこそこ高音質のプロファイルに対応していなかったり、SBCという音質の低いコーデックで音が転送され、かつ電波状況に応じてさらに低いビットレートが選択されたりして、得るべくしてこの不名誉の称号を得る結果となっているのは間違いない。少なくとも、過去のBluetoothオーディオ&イヤホンはそう、間違いなく音が悪く、ほぼ使用に耐えないものだったと言い切って良いとボクは思う。
さて、それでは現在のBluetoothオーディオはどうなっているだろうか。
ボクの経験上だけど、これはかなり昔に比べて改善されているように思う。
だけど、そのように過去からすると劇的に良くなっているにも関わらず、おそらく世間の評判は「人によって印象がまちまち」という結果になっていると思う。
では、それは、何故だろう。
それはなんとも厄介な相互接続性の問題がそこにあるからだ。
Bluetoothオーディオの前提知識
さて、Bluetooth機器のスペックを見ていると、色々とわからない用語が出てくる事だと思う。それは、バージョンだったり、Class、プロファイル、そしてコーデックという言葉だ。
詳しくはWikipediaの項目を見てもらう方が早いと思うので、ここでは説明しない。
Wikipedia - Bluetooth
なぜなら、Bluetoothオーディオを考える上では以下の三点だけ確認すればよいからだ。
- A2DPプロファイルに対応している事(今や対応していない物はほぼない)
- Bluetoothバージョンが4.0以上である事(3と4には相互接続性の問題があるという噂あり)
- コーデックの何に対応しているか
- 「送信側(スマホやトランスミッター)」
- 「受信側(イヤホンやレシーバー)」
の両方で必ず行う必要がある。
幾らイヤホン側で高音質のコーデックに対応していたとしても、送信側の例えばスマホなどで対応できていないと、「両方で対応しているコーデックが選択される」事になり、これが足かせになってしまうからだ。
では、Bluetoothオーディオで使われるコーデックにはどういうものがあるのか?
このコーデックというものも十分に理解する必要があるので、次にこのコーデックについてまとめてみたいと思う。
Bluetoothオーディオで使われるコーデック
さて、このコーデックだけど、Bluetoothオーディオの特に音質に限って言えば簡単に言うと「音声を送信側から受信側に送る際の圧縮形式」と理解してしまっても良いと思う(実際には圧縮だけじゃなく、フレーム分割方式なども含めたものだけど、そこは音質には影響しないので)。
そこで、まず話として、「なぜ圧縮しないといけないのか」という話なのだけど、これはBluetoothオーディオ(A2DPプロファイル)で伝送可能な帯域の上限が最大で500Kbps程度である(最新チップでは1Mbpsに拡張されている)事が理由となっている。
CD音質というのがつまり「44.1kHz/16bitのPCM音源」を指しているのだけど、これを無圧縮で送信する場合、1.4Mbpsの帯域が必要との事なので、つまりは「圧縮しないと伝送できない」というわけだ。
さて、その圧縮に使われるBluetoothオーディオのコーデックだけど、A2DP規格で対応必須となっているSBCというコーデック以外にもいろいろあって、ここの理解がBluetoothオーディオで高音質を目指すためには重要となっているので、以下の通りまとめてみたいと思う。
- SBC
A2DPプロファイルの標準(必須)コーデック。最大は345kbpsとの事であるが、これは接続状況によって可変であり、過去にはかなり低いビットレートで接続される場合も多く、「Bluetoothは音が悪い」という過去の評価の元凶となっているコーデック。
コーデック自体はMP3の前身となった古いコーデック(MPEG-1/2 Audio Layer-2)辺りをベースとしているようなので、ビットレート当たりの効率は悪いはずだが、最新の機器では上限のビットレートで安定的に接続される事も多く、「SBCしか対応していないのに割と音がいい」という逆ザヤを最近では産み出している。
- AAC
主にiPhoneがデフォルトで対応しているコーデックで、そういう意味で一部ではデファクトスタンダードとなっているコーデック。
ちょっと情報が錯綜しているので、間違っていたらまた直すけど、iTunesでCDを取り込んだ際に使用されるAACコーデックと同じもので、「元がAACかつBluetooth伝送可能な条件が揃って入る」場合は、「再圧縮せずに」伝送できるため、本来であれば送信側と受信側の間での劣化は無いと言える。
ただし、どうもこの辺り、チップの実装によるらしく、再圧縮がかかっているという場合も多い。なお、iPhoneからの伝送では必ず再圧縮されるようで、このやり方だと元音声にシステム音声を合成した上で再圧縮するので、音質はそれなりに劣化する事は想像に難くない。
【第153回】“iPhoneのAACファイルをAACでBluetooth伝送すると音質劣化しない”は本当か? - Phile-web BluetoothのAAC伝送は劣化している |
- apt-X
iPhoneがAACにしか対応しない状況で、Android側で急速に採用が進み、Androidの高級機ではほぼ標準となってきているコーデック。
特徴としては、44.1kHz/16bitの音声の場合は384kbpsなど、固定ビットレートで伝送するため、SBCのように気づいたら低いビットレートの音声を聴かされているという事もなく、その点では安心感がある。
また、圧縮ロジックが軽量で、小さいフレームをどんどん伝送するという方式により、コーデックの仕様上、遅延が少なくできるというメリットがある。
高音質&低遅延が必要な場合は、まずこのコーデックの採用有無から確かめておけば問題が無い、そんなコーデックとなっている。
- apt-X Low Latency (aptX-LL)
上記のapt-Xから派生したコーデックであり、apt-Xに比べてさらに低遅延化を実現したコーデック。
apt-Xでは音声遅延が70ms(+-10ms)となるのと比較して、aptX-LLではなんと40ms未満という低遅延を実現している。
- aptX-HD
こちらはapt-Xの拡張コーデックとなっていて、ハイレゾ対応という事でビットレートを上げ(768kbps)て48kHz/24bitの伝送を可能にしている点が特徴となっている。
- LDAC
Sonyが開発したコーデックで現状、Sonyの機器で広く採用されている新しめのコーデック。Android8.0では、送信機側のコーデック利用ライセンスが無償化されたため、今後急速に採用が進む可能性がある。
以下のように、3つのモードが準備され、最大990kbpsの伝送が可能で、96kHz/24bitのフォーマットに対応している事も特徴。いわゆる「ハイレゾ」に対応しているため、音質優先モードではCDの音質を超える事を謳っている。
①990kbps: (音質優先モード)
②660kbps: (標準モード)
③330kbps: (接続優先モード)
Sony Japan | LDAC™で高音質ワイヤレスリスニング LDACの紹介。 |
なお、この990kbsは、BluetoothのA2DPの仕様上、ギリギリの上限なので、接続状態がかなりシビアに効いてくる事が予想され、電波干渉などで接続状態が悪くなる可能性の高い屋外や電車内などでは音質優先モードは使えない可能性が高く、ウォークマンでもデフォルトは標準モードに設定されている。
音質優先モードは条件の良い屋内専用となる可能性も高く、また、対応機器がほぼ限られており、現状では対応チップ(CSR8675)を採用している機器もほとんどないため、LDACを狙った構成を組むことでしか対応できない。
ワイヤレスイヤホン選びで重視するコーデック
さて。色々と新しいコーデックが出てきている状況ではあるが、ワイヤレスイヤホンに使用するコーデックとしてはどれが最適なのだろう?
もう音質を最優先するという話になれば、当然候補としては「LDAC」もしくは「apt-X HD」となるであろう。
ただし、これらのコーデックは対応機器が極端に少ないという実状があり、また、通勤などの屋外での使用やその他、電子レンジやWiFiとの電波干渉まで考えると、ベストコンディションでの接続はかなり限定された空間のみで実現できるものとなるだろう。
そして、帯域幅の大きい音声フォーマットは、それだけ「伸長処理の負荷が大きい」という課題があり、伝送遅延を小さくできないという問題がある。
つまり、これらの最高音質を目指すコーデックは、利用シーンを相当選ぶものとなってしまう事となってしまう。
さて、それでは実際のワイヤレスイヤホンの利用シーンとしては、どんな状況が考えられるだろう?
誰しもが自宅でピュアオーディオシステムに接続して、音楽を楽しむ用途でこれらの機器を購入するわけでは無いだろう。最高音質を求めるのなら、他のやり方の方がもっとスマートだ。ワイヤレスイヤホンに求めるのはどちらかというと、「そこそこの高音質と利便性」ではないだろうか。
そして、実際には、Youtubeやテレビ映像、映画やドラマの視聴など、映像と共に楽しむというシーンの方も多い気がする。
それならば、「映像と音声のズレ」、いわゆるリップシンクの問題を無視する事はできないだろう。
そういうわけで、ボクの結論としては、利用シーンが電波干渉の多い電車内部での使用も多いこともあり、また、YoutubeのMVなどを見る機会も多いので、帯域に余裕があり、遅延に最も強い「apt-Xもしくはapt-X Low Latency」をあくまで現時点での見解としては推したいと思う。
実験で検証! Bluetoothコーデック「aptX」はなぜ高音質で低遅延なのか? (2/3) - Phile-web 遅延のデータが実に参考になる。 |
なお、apt-Xに対応する機器もだんだん増えてきており、選択肢が多いというのも理由の一つである。
なお、当然だけど、自宅での音声利用を最重視する場合はLDAC/apt-X HDを選択するべきだろう事を再度言及しておく。
iPhoneユーザは無視できないコーデック、AACについて
あと、無視できないのがAACであり、iPhone単体ではAAC(とSBC)にしか対応していない。
AAC接続もAAC自体がチップにコーデックが古くから実装されたかなりこなれたコーデックであるからなのか、SBCよりは遅延が少ないという風に言われている事もある。
いずれにせよ、iPhoneユーザはAAC対応機器を選択するか、apt-Xに対応した外付けのトランスミッターを導入するかのいずれかになるので、ここは注意が必要だ。
※余談だけど、AirPodsも独自に拡張したAAC対応のイヤホンであるという事だ。
Apple AirPodsは単純なBluetoothイヤフォンではない? 意外に複雑なその実装形態 - BusinessNewsline 見た目以外は結構すごいのかも。 |
なお、AACについてはどの程度のビットレートで伝送しているのか情報が見つけられなかった。まあそれでも、直感でしかないけど、おそらく256kbps以上のビットレートは確保しているんじゃないかとは思う。
なお、どのコーデックもそうだけど、300kbps以上あれば、通常、我々はAAC256kbpsで圧縮されたような音声を聴いているわけなので、それなりに高音質という風に思うかもしれないけど、ボクの経験上、「リアルタイム圧縮」された音声は何故か圧縮効率が悪く、音が悪くなる印象がある。
Bluetoothの音声がどこか薄っぺらい感じに聴こえるのも、このリアルタイム圧縮のロジック周りが元凶になっているのかもしれない。
まとめおよび次回予告
さて、頑張って書いても「基礎知識編」くらいしか書ききれなかったが、まあ既定路線というところで(笑)。
次回は、皆さんの知識欲の本丸である、実際のBluetoothイヤホンを選ぶ際に、どういった点に注意しないといけないかについて、実際の製品分析を交えてまとめて書いてみたいと思う。
うーん、ワイヤレスオーディオも深いなあ。
深すぎて買えないといういつものルーチンに落ちそう(笑)
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