【ミニレビュー】ヘッドフォンジャック消滅のiPhone。Lightning-3.5mmアダプタの注意点 - AV Watch ジャックアダプタ出力の音質は残念らしい。 |
さて、今回はBluetoothイヤホン/ヘッドフォンを実際に購入する際に、どういう点を考えていけば良いかを考えてみよう。
なお、ボクもこのテーマで色々調査してみたところ、つくづくワイヤレスイヤホン、Bluetoothイヤホンがまだまだ普及期のかなり前段であり、まだ多くの人が使った事もないんだろうなあというのを実感しているところだ。
「やはりaptX HDかLDACに対応しているのはマストだろう」なんて記事も多いのだけど、それこそ、Bluetoothイヤホンを何度か通勤電車の中で常用しようとチャレンジし、毎回、その音のダメさに思わず窓から放り投げてやろうかという事を繰り返してきたボクらオッサンの汗と涙をまったく理解していない(笑)
一番気になるのは遅延と接続安定性
aptX HDやLDACは確かに気になる。確かにこれまでより高音質が得られる可能性も高い。ただし。まずは自分の使い方をよく考える必要がある。なぜなら、場合によっては、ほとんど最高性能が得られない可能性が高いからだ。
Bluetoothというのは2.4GHz帯を使用する、省電力デバイス用の規格として誕生した、なんて書くと勘の良い人はピンと来るだろう。
そう、Bluetoothはその仕様上、電波干渉にメッチャ弱いのである。無線LANにも、電子レンジにも、IH調理器にもめっちゃ弱い、そんなものだという事をまず理解する必要がある。
次に、自分のユースケースを考えてみよう。自宅でゆったり、「音楽を楽しむ」なんて事を思い描く人は問題なし。これから出てくるaptX HD機器かLDAC対応機器をじっくり選択すれば良いと思う。
では、「それなりに混雑した通勤電車の中で音楽に加えて動画を楽しむ」人はどうだろう。おそらく「スマホ用のワイヤレスイヤホン」というユースケースだとこういった使い方が一般的ではないだろうか。
さて、込み合った電車内の「ワイヤレス環境」はどう考えても劣悪なはずだ。実効帯域の上限が1Mbps程度しか確保できないA2DPの制限上、LDACでは990kbpsなんてとてもとても、660kbpsでも怪しく、せいぜい330kbpsでの接続が関の山となるだろう。
下手すると、接続すらできない時もあるかもしれない。こういった情報は是非購入前に商品の評価の調査内容として盛り込んで置くべきであろう。
さて、では、LDACで330kbpsで安定的に接続できたとしよう。音質についてよく考慮されたBluetoothイヤホン/ヘッドフォンだとそこそこ良い音で音楽を楽しむことができるのは間違いない。
ただし、「動画を楽しむ」場合はどうだろう。ここではやはりその音声の遅れが重要となる。
aptX以外のBluetooth接続オーディオ機器では音声の遅延に対する保証が無いため、動画より音声が遅れるという自体を産み出してしまう。ちなみに各コーデックにおける遅延は以下の通りとなっている。
- SBC(SubBand Codec 遅延220ms前後)
- AAC 128kbps(Advanced Audio Coding 遅延120ms前後)
- AAC VBR 256kbps(Advanced Audio Coding 遅延800ms前後)
- aptX(遅延 70ms前後)
- aptX Low Latency(遅延 40ms未満)
さて、ではこれはどの程度の遅れとなるのだろうか?
例えば映画の1秒間のコマ数は24枚となっている。この場合、だいたい1コマあたり41msになるのだけど、SBCでは5コマ以上、AAC VBRでは20コマ以上(?)、音声が遅れる事になり、これはもうリップシンクどころの話ではない。
なお、aptX Low Latencyであれば1コマ未満となるので、ほぼ遅延を感じることが無い事がわかるだろう。
こう考えると、ボクが前回の記事でaptX Low Latencyを推した理由も見えてこないだろうか?
スマホ用のBluetoothコーデックとして、ボクがaptX Low Latencyを推す理由を再度、以下の通りまとめてみよう。
- 帯域の上限ギリギリを使う事にこだわらず、ある程度余裕のある350kbps付近の固定ビットレートで最適化されている。
- 音声遅延について最適化がなされており、動画でも音声の遅れが気にならない。
- 2016年9月時点でも対応機器がそれなりにあり、選択肢が広い。
Bluetoothイヤホン/ヘッドフォンの音質を担保するための考慮ポイント
さて、これまではBluetoothイヤホンのコーデックに注目して、話を進めてきたわけであるが、ここでは、「オーディオ機器としてのBluetoothイヤホン」について考えてみたいと思う。
Bluetoothイヤホンをオーディオ機器として考える上で、重要なポイントがある。
それは、Bluetoothイヤホン自体が、DAC/アンプ/ドライバー(イヤホン/ヘッドフォン)の全ての機能を持っている統合オーディオシステムと見なせるという点である。
この場合、当然最も重要となるのは、イヤホン/ヘッドフォンを構成するドライバー部分(一般オーディオ機器で言うスピーカーに相当)になるだろう。
据え置きのシステムでもスピーカーが出音の5割以上の性能を決めるわけで、おおよそ、この部分の性能が出音の性質を支配的に決めると言って良いかと思う。
そして、「統合オーディオシステムである」という事からわかるとおり、一般的なオーディオでいう、DACおよびアンプ性能も大変に重要となるだろう事も理解できると思う。
Bluetoothオーディオを考える際、当然、無線区間は「圧縮されたデジタル音声データ」でやりとりされている。
つまり、レシーバが受信する音声データはデジタルデータに過ぎず、これを、実際に耳で聴く音声にするためには以下の処理が必要となり、
- デジタルデータからアナログ音声信号への変換
- 上記信号をイヤホン/ヘッドフォンを駆動できるまで増幅
でも、どうだろう。「そんなの当たり前じゃないか」という風にも思わないだろうか?
ワイヤレスイヤホンの憂鬱
高音質と言われている高級オーディオはだいたい巨大で重い。
このアンプ、30kgあるんだぜ、、、てか、定価60万にまず驚くべきか笑
これは、「小さくて高いオーディオは売れない」というよくわからない価値観のせいもあるかもしれないが、だいたいにおいて、電源が巨大だったり、それなりにパーツ構成を吟味し、ノイズ対策のためにコイルや電解コンデンサを追加したりしていくとオーディオはどんどん大きくなってしまう傾向がある。
さて、こういった状況に対し、ワイヤレスイヤホンに求められている要件はどうだろうか。
まず身体に装着する事が前提となるために、軽量でないといけないだろう。そして、小さくなくてはならないだろう。
その状況下で求められる条件。
それは「部品数は少なく、消費電力はより少なく」となるのは想像に難くない。なぜなら、その小さいボディの中にレシーバもDACもアンプもドライバー、そしてバッテリーまで積まないといけなく、部品数、重量共に、極端に厳しい制限の中で統合オーディオシステムを実現しないといけないからだ。
そして、この状況が、「Bluetoothオーディオの音質を考える」上で、重大なジレンマを生み出していると思われる。
それが、「Bluetoothオーディオの機能統合化による伸び悩み問題」である。
現在、Bluetoothレシーバチップは機能の集積化が進んでおり、単にBluetoothの受信に留まらない、多くの機能を有する事となっている。
例えば、LDACやaptX HDを実現する最新のチップはCSR社のCSR8675というチップになるのだけど、このチップはざっとこれだけの機能を有している事になる。
CSR8675™ 多機能化が進むBluetoothレシーバチップ |
CSR8675の主な機能
- DSPのパフォーマンスを最大120 MIPSに向上
- 統合型高性能ステレオDACおよびADC
- 24 bitデジタル・オーディオのサポート
- 2 x I2Sインターフェイス
- 1 x SPDIFインターフェイス
- 2 x 追加GPIO(CSR8670に対して)
- Bluetooth v4.1サポート
- 16Mb内蔵eFlash、最大64Mb外部シリアル・フラッシュ
- 6 x 静電容量式タッチセンサー入力
- 最大6デジタル・マイク入力
- ANCフィードフォワード・アーキテクチャのサポート(Active Noise Control、つまりノイズキャンセリング機能)
そして、多くのBluetoothチップがI2S出力(デジタル音声出力)を保有しているにも関わらず、このオマケのDAC機能で音声データのDA変換を行っている。それは何故か。
ボクの個人的な見解を含むかもしれないけど、以下の3つがその主な理由であると考えてよいかと思う。
- 統合電源管理ができるので消費電力を小さくできる。
- レシーバチップ以外にDACが不要なため、小さく作れる。
- 上記理由によりコストを削減できる。
高音質なBluetoothオーディオの作り方
CSR社はこのレシーバチップに内蔵されたDAC機能を「統合型高性能ステレオDAC」と言ってはいるものの、例えば統合チップであるCSR8675と音声専用DACチップであるES9018K2Mのチップサイズがそんなに変わらないという事実からも、こと、DAC機能に関してはES9018K2Mには到底及ばない事は想像に難くない。
スペックで語るのが一番早いと思うけど、一世代前のCSR8670にはSN比の記載があって、チップのスペック比較をしてみると、
- ES9018K2M SN比 127dB
- CSR8670 SN比 96dB
では、上記を踏まえた上で、高音質なBluetoothオーディオを作るにはどうすればいいか?
もうほとんど答えを書いているようなものだけど、その方法は「I2S出力のあるBluetoothチップを採用」し、「自前で高音質なDAC回路を準備」すれば良いという事になるだろう。
この辺りを実際の製品の例で少し見てみよう。
Betasphere Audio Beacon HR-120 Bluetooth Link - Review - DroidHorizon 下段辺りの写真参照 |
少し古い英語の記事だけど、「中身は高音質と評価の高いELECOMのLBT-AVWAR700と同じもの」であるBluetoothレシーバの分解記事を書いている人がいるのだけど、こちらのBluetoothレシーバでは、DACとしてWM8524というSN比が106dBのDACチップが採用されており、少し古い廉価チップのためにそこまで高性能とは言えないけど、CSR8670の内蔵DACよりは十分に性能が高い事が伺える。
- WM8524 SN比 106dB
というか、久々に見るとaptX対応で光出力(こちらもそこそこ高性能)もあって恐ろしく安いな、、、欲しい(笑)
なお、下位モデルのLBT-AVWAR500ではBluetoothレシーバ内蔵のDACが使われているらしく、LBT-AVWAR700と比較して、おそらく世代的にもCSR8670よりもずっと古い世代のチップである事も含め、LBT-AVWAR500では望むべく高音質が得られない可能性が高い。
そして、他の最新機器の例もちょうど見かけたので紹介しておこう。
直近で発表されたオーディオ機器でYAMAHAのWXA-50/WXC-50という製品があるのだけど、こちらは接続こそSBC/AACに限られているもののDACチップとして「SABRE 9006AS」というESS社の最新のSN比が120dBのDACが採用されており、AAC接続時における高音質が特に期待できるといえる。
- SABRE 9006AS SN比 120dB
ヤマハの高音質技術を薄型ボディに凝縮。新ネットワークプリメインアンプ - AV Watch ヤマハの最新レシーバ付プリアンプ/プリメインアンプ |
この製品はどうしてもSBC/AACのみの対応という事で、動画音声を飛ばすには色々課題があるものと思われるが、iPhoneからの音楽用途であれば、Bluetoothとは思えない高音質を実現できる可能性が高いと言って良いだろう。
次回はようやっとのBluetoothイヤホン紹介、、、なるか?
さて、まとめよう。どうやら、Bluetoothオーディオ機器の高音質の最後の鍵となるのが、「専用の高音質DACを内蔵しているか」になりそうだ。
そして、省電力や重量の制約の中、どういうイヤホン/ヘッドフォンを選べばよいのかについては、すべてを兼ね備えた機器というのは難しく、「何を重視して何を捨てるか」の選択になる気がしている。
次回はこの辺り、実際に製品紹介を兼ねて、どういうイヤホンを、どういうポイントを重視して買えば良いのかについて、紹介してみたいと思う。
乞う、ご期待。
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