Raspberry Pi はポータブルオーディオプレーヤーの夢を見るか?【前編】(ラズパイ・ポタアン化計画)


皆さん、Raspberry Pi Zero Wは既に入手済みだろうか?

さて、すっかり一部界隈に定着化しつつあるラズパイ・オーディオだけど、兼ねてから興味はありつつも幾つか理由があって後回しにしていた、ラズパイ・オーディオのポータブル使用について、ようやく取りかかるタイミングが来たように思っていて、今後一気にブームが加速する可能性すら感じている状況だ。

というわけで、今回は「Raspberry Piは高音質ポータブルオーディオプレーヤーの夢は見るか?」と、ボクの中では割とベタなタイトルをつけて、この辺り、ラズパイ・オーディオをモバイル用途で使用する場合の実現方法や、課題、使用感などについて書いてみたいと思う。

なお、こちらも、前回2回で紹介したTIMEDOMAIN lightの導入に続き、2017年はボクのオーディオ・ライフにとっての当たり年と言っても過言ではない程の結果が出ているので、必読でよろしくお願いします!!



ラズパイ・ポタアン化に関する大きな課題


さて、冒頭でラズパイ・オーディオのポータブル化を「理由があって後回し」していたと書いたけど、それは幾つかモバイル利用における課題があって、どうにもシンプルで美しい形での解決策を見いだせなかった事にある。

その課題とは主に以下の4つだ。

  • ポータブル使用時のサイズ感について
  • バッテリー駆動時間の問題
  • 通信方法について
  • ヘッドホン使用に関する課題


ポータブル使用時のサイズ感について

さて、良く「割とデカめのポタアンを携帯電話にゴムバンドなどで装着している例」なんかを見かけるのだけど、やっぱり幾ら高音質とは言え、一般人の許容範囲を超えた装備になって来ると、「ああ、オーディオが好きなのね」というある種の「オタクを見るような目」にさらされるのは間違いないだろう。

特にサイズ感が大きくなってくると、その装備を入れるための小さなバッグとかが必要になったりと、もう、「やっちゃった感」無しには常用もできないわけで、少なくとも「スマートに音楽を聴きたい」と思う一般の層からすると、なるべく小さく薄いという事は重要なポイントになるかと思う。

その意味で、これまでのラズパイ・オーディオは一番小さくても、「Raspberry Pi Model A+」に「SabreBerry+」を装着した物が最小(以下、写真)で、Sabreberry+のソケットの高さの制約もあり、その厚さといい、大きさといい、バッテリーまで考えると、やはり胸ポケットに入る程度の大きさには納められないという課題があった。




バッテリー駆動時間の問題

さて、Raspberry Piをモバイルで利用するという事になると、外部電源が必要となる。

その電源としてはいわゆるモバイルバッテリーが活用できるわけだけど、Raspberry Piの消費電力もそれなりに大きく、また、通信のために必要となるUSB無線LANアダプタの省電力もそれなりに大きく、結果、大型のモバイルバッテリーを使用する必要がある事も、軽量化の観点からすると、重要な課題となるだろう。

また、ラズパイ・オーディオではLinux OSが基本OSとして使われており、バッテリー切れの際には、「OSが突然落ちる」という状況となるため、ファイルシステムの破損といった事態にどう備えるかという考慮も必要だったりする。


通信方法について

Raspberry Piそのものには、Raspberry Pi3の登場までは無線LAN機能は基本的に外付けの無線LANアダプタに頼る必要があり、どうしても出っ張ってしまう事と、その無線LANアダプタの消費電力から、通信に関しては色々と扱いにくい状況があったりする。

特に、ラズパイ・オーディオ自体が「ネットワークオーディオプレーヤー」というカテゴリに属するディストリビューションで構成されているため、元々は自宅で宅内LANに接続して、NAS上の音楽を再生するという使い方を想定している。

そのため、それと全く異なるモバイルでの利用については、音楽ディストリビューションの選定、音楽ファイルの配置や、その操作方法に至るまで一つ一つどうするかを決めてやる必要もあって、通信を含めてどう実現するかは大きな課題と言えるだろう。


ヘッドホン使用における課題

DACそのもの自体の機能としては、基本的に「デジタル音声データをアナログ変換する」のみであるので、その変換後のヘッドホンやイヤホンの駆動については、「ヘッドホンアンプ」に頼る必要がある。

このヘッドホンアンプについては、ラズパイ・オーディオがそもそも「据え置き想定」を基本としたシステムであるので、多くのラズパイ用DACでは実装されていない事もあって、モバイル利用には別途外付けの物を用いるなど、考慮が必要となる部分となっている。

なお、ES9018Q2CというES9018Q2MにSabre9601相当のヘッドホンアンプ機能を付けたチップを採用したSabreberry32や、廉価DACに採用の多いES9023も(音質うんぬんは別として)簡易なオペアンプ機能が実装されているので、こういった物を使うという選択肢もあるだろうが、ヘッドホンアンプ部の性能は音質に直結する部分でもあるので、十分な配慮が必要だと考えられる。


「Raspberry Pi Zero W」+「SabreberryDAC ZERO」という最強タッグ爆誕


さて、上記のような課題があった「ラズパイ・オーディオのポータブル利用」ではあるが、2017年の初夏頃、大きな進歩を見せることになる。

それが、「Raspberry Pi ZERO W」の日本国内での発売開始、および「Raspberry Pi ZERO/ZERO W」用のたかじんさん製作のDACである「SabreberryDAC ZERO」の登場だ。

SabreberryDAC ZERO
Raspberry Pi Zero W(スイッチサイエンス)

ざっと構成や機能の詳細については、それぞれの公式サイトおよび通販サイトを確認いただく方が良いかと思うけど、ボクの手持ちのRaspberry Pi ZERO WとSabreberryDAC ZEROを使って、これらの課題がどうクリアされるか(もしくはクリアが期待できるか)について、以下にまとめてみたいと思う。


圧倒的コンパクト!(サイズ問題の克服)

Raspberry Pi ZERO W自体のサイズがまず「65 mm × 30 mm」という風に圧倒的コンパクトである事に加え、たかじんさん考案(?)の装着方法を用いる事で、その厚みも3.5mmジャックをDAC側に具備しているにも関わらず、ネジの高さなども含んだ上で、14mm弱程度に収める事が可能となっており、過去のいずれのラズパイ・オーディオよりもコンパクトなシステムの構築が可能となっている。


さらに、ちょっと色々と手間は増えるけど、イヤホンジャックをDAC基板上から除去したり、低頭ネジやヘッダピンのはみ出し量の調整などを駆使する事でさらなる薄型化も可能なんじゃないかと思う。

いや、さすがにそこまで究極の薄型化は試さないけど。今のところ(笑)


超省電力!(バッテリー駆動時間の改善)

さて、次にポータルブル使用における駆動時間に大きく影響する、システム全体の消費電力について書いてみたいと思う。

なお、事前の情報収集から、このRaspberry Pi Zero Wについては無線使用時にも、かなり消費電力が小さいという情報を入手しており、その省電力性については、かなり期待していた。

というわけで、音楽再生を行った場合の消費電流を計測してみた。計測時のセッティングは最終的な使用イメージに合わせて、以下の通りとした。

  • 「Raspberry Pi ZERO W」+「SabreberryDAC ZERO」
  • たかじんさんが公開しているAPモード対応版のraspbian-jessie-lite改ありがたい気持ちでインストール
  • 操作用として「Raspberry Pi ZERO W」にスマホを接続
  • SDカード上の音楽ファイル(44.1kHz/16bitのFLACファイル)を再生


そして、実際に手持ちのUSB電力チェッカーを用いて計測してみた計測結果が以下の通り。

  • 電源投入直後のOS起動時は200-400mA辺りの消費電流量を確認。

  • 音楽再生中は170mA~200mAあたりで安定的に推移。



さて、この結果が実際にどの程度かという事になるのだけど、例えばボクの愛用している薄型バッテリー「MOCREO LAVO-2500」のスペックが「3.7V/2500mAh (9.25Wh)」という事なのだけど、平均で例えば「200mA(0.2A)」で駆動できていると考えると、「9.25Wh÷(5V×0.2A)=9.25h」という風に計算でき、理論上ではなんと、9時間以上連続再生できる事になる。

そして、実際は色々と内部での損失がある事を考えても、3~4時間くらいは余裕で駆動できると考えて良いんじゃないかと思う。

これはラズパイ・オーディオ史上でも、かなりの低消費電力となっており、「超省電力ラズパイ・オーディオシステム」がこの構成でようやく実現されたと言っても過言では無いんじゃないだろうか。



内蔵Wi-Fi&APモード+ボタン操作の最強タッグ(通信の課題クリア)

さて、従来のラズパイ・オーディオシステムでは、宅内利用を前提としていて、そのため、自宅内の有線LAN&無線LANに接続して使用する前提となっており、ポータブルにおける使用では色々課題があった。

特に課題だったのが、「音楽ファイル再生時の操作」をどうするかであり、既存の方式の延長では「モバイルルータを持ち出して自宅と同じように接続する」くらいしか方法が無く、USB無線LANアダプタの消費電力の問題もあり、「デカいモバイルバッテリーとモバイルルーターを併用する」という何ともスマートではない状況があった。

これらを解決するために、Raspberry Pi ZERO WとSabreberryDACの組み合わせでは以下の2つの操作が可能となっている。

まず、通常の無線LAN接続における操作については、OS側の「APモード」という機能を用いる事で、「Raspberry Pi Zero Wにスマホをダイレクトに無線接続する」事が可能となり、別途モバイルルーターを持ち歩く事なしに従来と同様の操作を可能としている。
※なお、音楽ファイルはSDカード上に配置する。

そして、SabreberryDAC ZEROでは基板上に「物理ボタン」が配置されていて、音楽の再生と停止、先送り&前戻し、音量調整、OSのシャットダウンなどがこのボタンを使用する事で操作可能となっている。



実際使ってみると、この物理ボタンによる操作は、初代iPod nanoなんかを使ったことがある人がいればあの操作感によく似ていて、数枚のアルバムを格納し、順番に再生すれば良いだけであれば、これで十分(無線接続すら不要)とも思える、素晴らしいブレイクスルーと言えるだろう。


最小のヘッドホンアンプ内蔵DAC(ヘッドホン直結OK)

さて、従来のラズパイ・オーディオでは、PCM5102やPCM5122、ES9018K2Mといういわゆる「ヘッドホンアンプを内蔵していないDAC」が主流であり、そのため、ヘッドホンやイヤホンを使用する際には、外部のヘッドホンアンプを準備する必要があり、これもシステム全体の総重量を小さくできない原因となっていた。

SabreberryDAC ZEROでは簡易とは言え、このヘッドホンアンプが内蔵されており、安心して、直接ヘッドホンを接続できるというというのはやはり大きな利点かと思う。


当然、アンプIC等については、価格と性能からバランスを見て選定されている(TI社のOPA1662)のだとは思うけど、パーツ選定や回路設計については十分に熟慮されている事が基板の実装からも見て取れ、背面に電解コンデンサを追加可能なパターンも準備されているなど、音質については十分期待できると考えてよいだろう。

Raspberry Pi はポータブルオーディオプレーヤーの夢を見るか?

さて、後編では音質や実際の使用感、ケースをどうするかなどについて書いてみたいと思うけど、今回の記事でも、この組み合わせによる「Raspberry Piのポータブルオーディオ化」が如何に期待できるものかは十分感じてもらえたものかと思う。

音質も具体的には後編に書くけど、「十分に素晴らしい結果が得られている」こともお伝えしておこう。

その意味では「夢を見るか?」などと書いたけど、既に覚醒し、新しいフェーズへと進んでいると言ってしまっても良いのかもしれない。

皆さんも是非、このRaspberry Pi ZERO WとSabreberryDACの組み合わせを試して、ポータブルオーディオを新しいフェーズに進めてみてはいかがだろうか。


↓↓ラズパイ駆動用のモバイルバッテリーは以下の薄さ6㎜の奴が超絶オススメです!!



(2017/8/15追記)
【後編】についてもようやく更新しましたので是非参照してみてください!



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